花粉症は、現在日本人の4人に1人が罹患(りかん)している国民病のひとつ。鼻や目がかゆくなり仕事に集中できずに、つらい思いをされている方も多いですよね。今回はそんな花粉症との付き合い方について、花粉症とは何か、悪化する原因や対策などを紹介していきます。
意外と知らない?花粉症とは
花粉症は今では日本人の25%が発症しているという国民病であり、今なお人数は増加しています。花粉症は一度発症すると治療は簡単ではなく、完全に治すことは難しいといわれています。まずは、そんな花粉症についての基礎知識を学んでいきましょう。
花粉症のメカニズム
花粉症はアレルギー性鼻炎のひとつであり、スギなら春、ブタクサなら秋と発症の季節が限定されます。ダニ・ハウスダストなど通年性のものと比較して「季節性アレルギー性鼻炎」と呼ばれています。
アレルギー性鼻炎は、アレルゲンが鼻腔内の粘膜に付着すると、体内に抗体が作られマスト細胞という細胞に結合します。その後再びアレルゲンが侵入すると、マスト細胞からアレルギー誘発物質が放出されることにより鼻水等のアレルギー反応が引き起こされます。
花粉症の場合は、吸い込んだ花粉を異物と認識した体内の免疫が過剰に反応し、アレルギー誘発物質が体内に放出された結果として起こります。花粉が体内に入り、すぐに花粉症が起こるわけではありません。花粉に対する抗体が数年~数十年かけてつくられ、そこに再び花粉が体内に入ることで花粉症が起こります。
そのため花粉症の治療を行う場合は、
花粉と接する時間を極力短くする
薬などで体内の免疫を落ち着かせる
この2点に重きを置いて行います。
実は花粉と接する機会を避ける行為は医療用語で「抗原回避」と呼ばれ、さまざまなアレルギー性疾患の治療に用いられている方法なのです。
花粉症の症状
原因は親のアレルギー体質を受け継ぐことや長期間にわたって花粉を吸い込むことのふたつがあり、遺伝と環境の両方が関わって発症すると言われています。しかし、確実な原因については、まだ解明されていません。
花粉症を引き起こす花粉の種類
スギ、ヒノキ、ブタクサ、ヨモギなど、アレルギー性鼻炎の原因となるといわれている8種類の花粉があります。
【大きく8つの代表的な花粉】
春 スギ ヒノキ
夏 シラカンバ イネ
秋 ブタクサ ヨモギ カナムグラ
冬 スギ
【より詳しく見た花粉飛散時期】
スギ (開花期2月〜5月初旬)
スギ以外の大本類 ヒノキ、サワラ、シラカバ、ハンノキ、ヤシャブシ、ケヤキ、イチョウなど (開花期2月〜6月)
イネ科 カモガヤ、オオアワガエリ(チモシー)、ホソムギ、ハルガヤ、ナガハグサなど (開花期5月〜8月)
イネ科以外の草本類 ブタクサ、オオブタクサ(開花期5月〜8月)、カナムグラ(開花期9月〜10月)、ヨモギ(開花期8月〜10月)
なかでも、最も患者数が多いのは春のスギ花粉症です。しかし、花粉症は季節を問わず起こりうるため、他の花粉やアレルギー物質による症状を併発することも珍しくありません。春だけではなく秋や冬にもアレルギー性鼻炎症状が現れる方は、別の花粉が原因かもしれません。また、地域によって、飛散する花粉の種類や飛散のピーク・時期が異なります。住んでいる地域の花粉の種類や飛散時期を確認しておくことが大切になります。
花粉症が悪化する原因
花粉症の重症度は、鼻水をかむ回数とくしゃみが生じる回数、鼻づまりは口呼吸の回数で診断されます。鼻水とくしゃみは密接に関わるので、まとめて「鼻水・くしゃみ型」、鼻づまりが他の症状より強いと「鼻づまり型」、3つの症状が同様に強いと「充全型」に分類されます。重い花粉症になると、自己ケアでは改善できません。できるだけ花粉症が悪化しないよう心がけていきたいですよね。ここでは、花粉症が悪化する原因について見ていきましょう。当てはまっていたら、すぐにでも改善するのをおすすめします。
脂質のとりすぎ
一般的に、地域や遺伝などのほかに挙げられるのが、食生活です。同じ地域に住んでいても、お年寄りには花粉症の有病率が少ないことから、昔からの和食に、アレルギー体質になりにくい要素があるのかもしれません。
特にインスタント食品やスナック菓子などの脂質のとりすぎは注意です。
ジャンクフードは、トランス脂肪酸を多く含んでいます。食品の成分表示でいうと、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、食用植物油、加工油脂などに多く含まれ、スナック菓子やファストフードなどのジャンクフードの多くはこれらが使われています。善玉菌を減らすことは、悪玉菌を腸内に増やすことにつながります。
脂っこいものや肉類はとりすぎないように注意が必要です。
アルコール・タバコ
日々のストレスを発散するのにお酒を飲む方も多いのではないでしょうか。しかし、自律神経を乱す睡眠不足や不規則な生活、そしてストレスも花粉症の原因と言われています。
お酒は血管を拡張させてしまい、鼻づまりや目の充血などの症状を起こしやすくしてしまいます。また、アルコールを分解するときに発生するアセドアルデヒドは、アレルギー症状のもとになるヒスタミンの発生を促してしまう作用もあります。さらに、アルコールと一緒におつまみとして食べるものには高タンパク、高脂質のものが多く、食べ過ぎると免疫力を低下させ、花粉症によくないと言われています。
また、タバコの煙は、鼻の粘膜を直接刺激し、鼻づまりを悪化させる原因になります。喫煙者は自身のタバコの煙が悪影響を及ぼしますが、タバコを吸わない人も喫煙者の煙によって刺激を受けてしまいます。また、排気ガスなども刺激の原因になりうるとされていますので、注意が必要です。
花粉症対策にできること
花粉症はアレルギー反応のため、体の免疫力を高めることで抵抗力を上げ、アレルギー反応を抑えることが期待できます。そこでここでは、花粉症対策としてできることを6つの項目に分けて詳しく紹介します。
1. 治療を行う:アレルゲン免疫療法
花粉症の薬である抗アレルギー薬の内服を行うことは、花粉症対策に効果的です。体内の免疫がまだ活発でないころに飲み始めることで、花粉症の症状を軽くする効果もあります。花粉症の症状の原因となるヒスタミンという物質を抑える「抗ヒスタミン薬」が最もよく使われており、市販薬も最近は増えてきました。ただ、抗ヒスタミン薬は花粉症の症状を抑えると同時に、脳の覚醒を妨げ、眠気も引き起こします。
これはヒスタミンは鼻では鼻水やくしゃみを、脳では覚醒・集中力を保つはたらきがあるためです。
しかし近年では、鼻には効くけれど脳内に薬の成分が行かないような改良がされ、眠気の心配が少なく、安心して使用することができる「第2世代抗ヒスタミン薬」も出てきています(アレグラやクラリチンなど)。また、花粉症に効果的な市販薬には、「内服薬」「点鼻薬」「点眼薬」があります。つらい症状の部位や程度に合わせて適切な薬を選びましょう。
2. 治療を行う:舌下免疫療法
近年では「花粉症を治す」治療、「舌下免疫療法」が広まりつつあります。これはアレルギーの原因物質を少しずつ投与することで身体の免疫を慣らし、アレルギー反応を抑えるという治療です。舌下免疫療法は自宅で舌の裏に治療薬を貼り付ける方法なので、通院の回数が少ないことがメリットとされています。しかし、デメリットもあります。それは、この「舌下免疫療法」には即効性がない、ということです。つまり、根治はするが、すぐには効果がないため、長期計画になるということです。
併用して治療することもできます。数年頑張って治療すれば、一生花粉症と付き合っていく必要はなくなるので、花粉症の症状が重い人ほど検討してみてもいいのではないでしょうか。
3. 治療を行う:レーザー治療
近年では「レーザー治療」も注目されています。
アレルギー反応を起こす鼻の粘膜をレーザーで焼き、アレルギーを起こす場所を減らすことで症状を緩和させる治療法です。
体質を改善するものではないため、粘膜が回復することで再び花粉症の症状が現れるようになります。しかし、一度の治療で2年ほど効果が持続し、再治療を受けることも可能です。
4. 花粉を体内に入れない
そもそも花粉を体内に入れないという、前述の抗原治療も有効です。洗濯物の部屋干しを心がけたり、こまめに空気清浄機を使うと花粉が体内に入りにくくなります。また、花粉は湿度が高いと飛散しにくくなるため、空気清浄機を使うときは、加湿機能がついているものにするのをおすすめします。
外出時のマスク着用、手洗いうがい、こまめな衣服の洗濯、帰宅してすぐの入浴はウイルスや細菌だけでなく、身体や衣服についた花粉を落とすうえでも有効です。新型コロナウイルス予防として行っている方も多いと思いますが、花粉症対策にもなりますので、継続して行うのがおすすめです。目の粘膜に花粉が付着しないように、花粉症用のメガネをかけることも効果的ですよ。
5. 花粉が飛ぶ日を把握する
ニュースのお天気コーナーでも地域ごとの飛散情報を取り上げていますので、翌日の花粉情報をチェックするのはもちろん、風の強い日や湿度が低い日のほか、雨の降った翌日はとくに花粉の飛散量が多い傾向にあります。花粉の飛びやすい日は極力外出を控えましょう。
【花粉が飛びやすい条件】
気温が高く湿度が低い日
風の強い日
前日に雨が降った日
晴れた日の昼過ぎ
晴れた日の日没ごろ
6. 粘膜から花粉を取り除く
マスクやメガネで対策しても100%の花粉を防ぐことはできず、ある程度は花粉が粘膜に付着してしまいます。そのため、粘膜か花粉をしっかり取り除いておきましょう。
目から花粉を取り除くためには、しっかり洗眼するのがおすすめです。
ポイントは、洗眼薬を使うこと。大量の水道水は目を守る役割を持つ涙まで洗い流してしまうため、必ず専用のものを使ってください。また、洗眼薬は1日当たりの使用回数が定められているものもあります。用法を守って使用しましょう。
鼻の粘膜の洗浄には鼻うがいが効果的です。
鼻うがいは液体を鼻孔から流し込み、粘膜を洗浄する方法です。こちらも鼻うがい専用の液剤が販売されています。目をかいてしまいそうなほどにかゆい場合は、冷たいタオルをまぶたにのせて冷やすのも効果的です。
花粉症対策に取り入れたい食べ物
最後に、花粉症対策をするときに取り入れたい食べ物について紹介します。「すぐに薬に頼れない」「まだ症状が軽いから、一旦自己ケアで対処したい」という方は、ぜひこの章を参考に、毎日の食事に取り入れてみてください。ただし、食べ物の効果は人によって異なります。花粉症の症状が強く、仕事や勉強、家事など日常生活に支障がある場合は、症状に合う治療と対策をきちんと行ってくださいね。
① 乳酸菌
花粉症は免疫機能の異常により発生しますから、免疫機能が正常に働くことで、花粉症特有のアレルギー症状の発生を抑えられます。実は免疫機能をつかさどる免疫細胞の約60%は腸に集中しているため、腸の環境を整えることが正常な免疫機能の活動につながるとされているのです。加えて、白血球の中に含まれる免疫細胞「Th1」「Th2」のバランスも花粉症の発生に深く関わっています。花粉に反応する「IgE抗体」の産生に関わるTh2が多くなると、アレルギー反応を引き起こす「ヒスタミン」を発生させやすくなってしまうのです。
そこで摂取したいのが、乳酸菌です。乳酸菌は腸内環境を整える働きだけでなく、免疫細胞のバランスを整える働きも持っています。ヒスタミンの発生を抑えるよう働きかけてくれることで、花粉症の症状が抑えられます。
【乳酸菌の代表的な食品】
ヨーグルトやチーズ、味噌、キムチなどの発酵食品
② 食物繊維
免疫力を高めるためには食物繊維をとることも効果的です。
食物繊維には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があります。水溶性食物繊維は腸内の善玉菌のエサになり、腸内環境を整えます。水溶性食物繊維は便をやわらかくし、便のすべりをよくする働きもあります。一方、ゴボウや大豆などの不溶性食物繊維は便のかさを増やし、腸のぜん動運動を促します。腸内環境がよくなると腸の免疫機能も向上するので、花粉症の症状改善が期待できます。
【水溶性食物繊維を多く含む食品】
ワカメやヒジキなどの海藻類、イモ類など
③サプリメント
目の粘膜や皮膚のただれに「ビタミンB2(リボフラビン)」、免疫機能を正常に保ち神経伝達物質の合成にもかかわる「ビタミンB6(ピリドキシン)」、目と粘膜の「ビタミンA」、 ストレスへの抵抗力をつける「パントテン酸」、ストレスで失われがちな「マグネシウム」などを積極的に摂るように心がけましょう。また青魚などの脂肪に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)にアレルギー抑制効果があるとの研究が注目を集めています。
まとめ
毎年のことでつらい花粉症。悩まされる方はとても多いですが、このシーズンは春の陽気で気持ちよく、お出かけに最適なシーズンでもあります。季節を楽しむおでかけを満喫するためにも、花粉症の予防や治療を正しく知り、上手に付き合っていきましょう。発症していない人だけではなく、発症した人は症状を重くしないためにも、帰宅したら、玄関に入る前に花粉を払い、うがいや顔を洗う習慣をつけることが大切です。今まで大丈夫だった人も、突然発症することもあります。「自分は大丈夫」と思わず、しっかり対策を立て予防していきましょう。
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